今回は、筒井康隆さんのSF小説『旅のラゴス』を読んだ感想を綴っていきます!
作品情報
著者:筒井康隆
【作品名】旅のラゴス
【作家】筒井康隆
【出版社】新潮社(新潮文庫)
【冊数】全1冊
【ステータス】完結済み
【初版発行日】1994年3月1日
【ジャンル】サイエンス・フィクション、ファンタジー小説
あらすじ
北から南へ、そして南から北へ。突然高度な文明を失った代償として、人びとが超能力を獲得しだした「この世界」で、ひたすら旅を続ける男ラゴス。集団転移、壁抜けなどの体験を繰り返し、二度も奴隷の身に落とされながら、生涯をかけて旅をするラゴスの目的は何か? 異空間と異時間がクロスする不思議な物語世界に人間の一生と文明の消長をかっちりと構築した爽快な連作長編。
©︎筒井康隆/新潮社 新潮社HPより(https://www.shinchosha.co.jp/book/117131/)
感想(ネタバレあり)
※以降は、ネタバレありの感想を書いております。未読の方でお話の内容を知りたくないという方は、こちらでUターンをお願いいたします!
固有の動物名や植物名が出てきたり、不思議な力が出てきたりする本作がスラスラと読めてしまうのは、連作形式ということもあるでしょうが、もちろん筒井さんの文章力あってのことでしょう。筒井さんの作品を、まだすべては読めていないのですが、どちらも私の好みに合っています。
本作も、人や生活の束縛感がない旅人を主人公においているためか、文章がねっとりとしておらず、湿度が高くなく、ただただ、ラゴスの旅路を覗き見しているような感覚でした。
1人称ですが、長々と胸中を語るような場面はなく、しかし、ラゴスの為人は読んでいくうちにどんどん見えてきて、憧れます。カギカッコが出てくる度に改行を入れていないところや1文が短いところも、さらりと読める秘訣なのかな。『たまご道』までは、何日かに分けて読んでいたのですが、『銀鉱』からはノンストップで読んでしまいました。
『銀鉱』では、「え、奴隷になっちゃうの?」と焦りましたが、ラゴスは持ち前の学を用いて昇格。それでも、一緒に捕まった街の住人の命を助けられなかったり、ラゴスの学のせいで掘削や採掘の人員がより必要になり余計に奴隷の命を奪うことになったりと、知識が必ずも全員を救うわけではないということが描かれているわけですが、ラゴスがそのことをあまり気にしていないことも、彼の為人をよく表しているのかなと思います。
目的地であったポロでもそうですが、人に対して淡白で、とにかく引き止められること、自分の邪魔をされることをラゴスは厭います。自己中心的というには彼の人柄はいいのかもしれませんが、自分の欲に忠実であることは間違いないんですよね。しかし、会う人会う人に好かれるという。なんて、羨ましい。
周りばかりが盛り上がって、それを本人は気にしないし、知ろうとも思わないポロでの生活には笑いました。読書の邪魔をされないために2人も奥さんにして、1人が妊娠したら、もう1人が嫉妬するといけないからと情交に励み、本を読み終わったら少しの執着もなく、ポロを去っていく。
こうして書き連ねていくと、「勝手な人!」と思いましたが、読書中にはそんなことを思わなかったんですよね。ラゴスと一緒になって、先人(いま地球で生きる私たちのような存在だと思いますが)の知識を貪っている気になっていたのでしょうか。
ポロを去って、また、奴隷商人に捕まって、15年間書きためた羊毛紙をすべて失っても、ラゴスはやはり、すぐに執着を手放すのでした。故郷に帰り、兄の嫉妬を受けながらも、それに負の感情を持つのではなく、兄が学校長になることができるよう自分の知識を明け渡したり。なぜ、ここまで自由に生きられるのだろう。
そんな彼が唯一、最後に欲したものは、青春時代に出会ったデーデ。ヨーマ(だと思っていますが)との会話を最後に、吹雪の中に去っていく終わり方が見事だと思いました。旅人ラゴスの明示的な終わりは、確かに見たくないものです。
「不自由だな」「縛られているな」と感じることがあったら、また、読み返したいと思った作品でした。
2021年2月5日(金)読了。
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